アコーディオンがうまく弾けない理由が、アコーディオンの操作上の問題ではなく楽譜を正しく読み取れていない - 音楽の基礎的なルールが抜けている ことが原因であることも実は多いのです。
・両手で合わせられない
・どんな曲か見当がつかない
・休符が入っていると分からなくなる
・弾いてみたけれど、これで合っているのかが分からない
そんなときは、もしかしたら楽譜が正しく読めていないのかもしれません。今回は拍、リズム編です。 音名編はこちら
両手が全然合わない! 合わせるだけでひと苦労・・・
「先生、この曲、どんなに頑張っても両手が合わせられなくて・・・」
「教則1巻78頁、『炊飯スイッチを押し忘れる』だね、名曲だね」
「どういう曲かの見当もつかないんですよ」
「どれどれ、この……
○で囲んだところ、何拍目かな?」
「赤い○のところは・・・4拍目。」
「はい…」
「緑の○のところは3拍目。」
「ふうむ、右手が4のとき、左は3なんだ。右と左とで数が違ってくるから合わせるの難しいよねぇ。」
「ええ、この曲みたいに休みが入ったり、8分音符が入ってくると途端に難しくって。全部4分音符の曲ならいいんですけれど。」
「どうやって数えているのかしら。」
「こうです、先生。」
「赤い○のところは4つ目に鳴るから4てことなんですよね、なら2小節目の右手が1212なのは何故? 1と2になるんじゃないの?」
「そこは2分音符だから2拍のばすんでしょ先生。だから2つずつ数えています。」
「じゃあ、この橙の○で囲んだところ
この8分休符は何拍目?」
「え? ・・・無い。」
「拍は無い、のね?」
「休符で休みだから、無い。ありません。」
「なるほど…」
「この曲みたいに数え方が難しい曲は、楽譜を見てもどんな曲か見当もつかないし、どんなに頑張っても両手で合わせられないんです」
「この曲は4拍子だから、拍の数え方は1234ですよ。」
「?? 1234では音が数えきれません。」
「拍じゃないものを数えているからだよね。」
「???」
「数え方が間違っているのです。」
「!!??」
音の高さが分かってもどんな曲か見当がつかない、片手ずつで弾けても両手で合わせられないのは、拍に合わせて音符や休符の長さを読み取っていないことが原因です。このような症状の方の多くが拍や拍子の意味を理解していない、というより音楽用語としての拍や拍子のことを知らないままでいるのです。
上の例の方の場合は、日本語での意味合いの「拍子」にとらわれています。日本語の意味合いとしての「拍子」は、「その拍子に」「何かの拍子に」と使われるように、タイミングや勢いづいた時という意味合いで使われます。あと、手を打つとき という意味もあります。三三七拍子の「拍子」がそれで、三つ打った後の間(ま)は「拍子」には入りません。言葉は同じなのですが、音楽用語としての拍子はこれらとは異なります。(ここで云う音楽用語とは西洋音楽の用語のことです。明治以降の日本の音楽のほとんどは西洋音楽の理論で組み立てられています。)
音楽用語としての拍や拍子のことを知らないままでいる場合、まず、自分では気付けません。独自ルールで数えているとき、大抵は頭の中で数えているために教室に通っていても発見されるのが遅れたり、気付かれなかったりします。さらに「自分はリズム感が悪いから」と思っている方ほど独自ルールで一生懸命数えていることが多いので要注意です。
あと、完全に感覚頼りで何も全く数えていない人がたまにいます。そのような方に拍を数えることをお伝えすると、非常に驚かれることがあります。
以下に挙げるのはよくある間違った認識です。
× リズムは勘が良くないとダメ
× 拍とは音を鳴らすところ
× 拍とは音の長さのこと
× 1拍は♩1つ分 →♩のときもあるし、そうでないときもあります
× 4分の2拍子は2÷4 (分数計算している)
× 4分の4拍子と2分の2拍子は同じ (分数計算している)
拍 とは
「拍(はく)」 一定の間隔で鳴るリズムのことです。
拍というマス目があり、拍子は「マス目いくつで1まとまり」を決める枠です。音符はそこに収まるタイルのようなものです。大きいタイル、小さいタイルがありますが、小さいタイルを何枚かつなげれば大きいタイルと同じになります。ブロック遊びをしたことのある方ならブロックの方がイメージしやすいかもしれません。
上の例の方は、鳴っているところが拍だと思っていました。そのため休符は「拍が無い」という扱いになっています。加えて音の長さも拍というとらえ方をしていたので数え方がさらに複雑になっていました。
では上の楽譜の拍がどのようになっているかというと、
こうです。一定の間隔になっていますね。
−−−
「え? 先生、こんなんでいいの?」
「4拍子なので、1234です。」
「一生懸命数えてきたのに・・・」
「うーん、気持ちは分かるけれど、この数え方にしましょうね」
1拍の長さ(間隔)は、拍子記号で指示されています。
拍子記号とは曲の始めに書かれている分数状の数字のことです。この曲は4分の4と書かれていますね。
拍子記号を理解するためには、各音符・休符の長さと名称を覚える必要があります。拍子記号の分母の数字は音符の種類を表しているからです。
拍と拍子の基礎的なことをまとめた動画です。
拍(はく)
等しい間隔で刻まれるリズムのこと。
拍子(ひょうし)
決まった数で強い拍と弱い拍が繰り返されること。
拍子記号
曲の始め、または曲の途中で拍子が変わるときに、分数状に書かれている拍子を表す記号。数字の下が音符の種類(何音符で1拍か)、上の数字が拍子を表しています。
この曲の場合
4分の4拍子なので、4分音符(♩)で1拍です。そして、1小節は4拍子→4拍です。
拍の頭ではないところはどうするのか
初級のうちで苦労するのは拍の頭ではないところの音、
この曲の場合ですと、拍の頭ではない右手のミの音の扱いに初級の方は戸惑うのですが、ではどうすればいいのかというと、
こうします。黄緑色で描いた線がいわゆる裏拍(通称ウラ)になります。8分音符・休符にも対応できるように拍と拍の中間も感じ取るわけですね。
しかし4拍子ですから、12345678と8まで数えてしまうと都合が悪くなります。黄緑色の線のところには「と」をいれます。
「1 と 2 と 3 と 4 と」
と数えます。ちなみに拍の頭、この図でいうと青の線のところは表拍(通称オモテ)と呼びます。
まとめると
1 1拍目のオモテ
と 1拍目のウラ
2 2拍目のオモテ
と 2拍目のウラ
3 3拍目のオモテ
と 3拍目のウラ
4 4拍目のオモテ
と 4拍目のウラ
になります。
この曲の右手のミの音は1拍目のウラということになります。
まとめ - 音の数や長さではなく、拍を数えよう
独自の数え方をすると両手を合わせるのが難しくなります。音を鳴らす数やのばす長さではなく、拍を数えるようにしましょう。
その為には各音符・休符の長さとその名称をまず覚えてください。
そして弾き始める前に拍子記号を必ず確認しましょう。
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「せんせい。」
「はい。」
「せんせいぐらい弾けるようになると、もう数えたりしないんでしょう?」
「はい??」
「感覚でスラスラ~っと弾けるようになるんでしょう?」
「そんなわけあるかあぁーー!!」
「わあああ…」
「言葉でいち に ・・・と唱えることはしなくても拍は常に打っていますし、常に何拍目かを把握しています。拍を体感しているとでも言うんですかね、そうじゃないと弾けません。西洋の理論で組み立てられている音楽では拍と拍子って根幹ですから、そこを感じ取らないで弾くということはあり得ません。」
「やっぱり日本人だからリズム感が悪いのかしら。」
「日本の伝統曲のリズム感が悪いわけじゃありません、他国・他地域と違っているだけです。それに明治以降、西洋の理論に基づいた音楽が作られ続けてもう150年になりますから、もうその言い訳は通用しないでしょう。」
「え? じゃあ歌謡曲なんか、みんな拍子が決まってて、それに合わせて演奏しているの?」
「そうです。演歌でも拍子がありますよ。伴奏している楽器だって洋楽器ですし。大体リズム感って勘のことじゃありませんからね。あと生まれ持った素質でもありません。経験と訓練です。」
「せんせいは曲を弾くときには全ての拍を感じ取って弾いているの? ひとつひとつ?」
「そうです、そもそもどこか抜けるってことはあり得ないんですよ。抜けてるときは間違えてるときです。」
「それを習得するとき、つまりせんせいがせんせいになる前、子どものときにはひとつひとつ数えて確認していたってこと?」
「今でも楽譜を読むときにはしますよ。」
「めんど・・・大変じゃないですか?」
「拍のまとまりで見たほうが早く楽譜が読めるんですよ。」
「へえー…」
「ところでせんせい、この『炊飯スイッチを押し忘れる』って曲、せんせいが作ったの?」
「はい。」
「私も押し忘れたことある。」
「悲しいですよね。朝、ぎりぎりまで寝て起きたときに炊けていない時のあの絶望感。」
「だからマイナースケールなのね。」